記憶の不思議~嫌なことが忘れられない理由

関心ワード
  • エピソード記憶 、
  • 記憶 、
  • 経験 、
  • 心理学 、
  • 想起 、
  • 認知心理学

講義No.g009974

記憶は変えられる? ~記憶についての心理学的研究の成果とは~

人の記憶は、語り直すことで変化する

受験勉強を経て難関を突破した大学生を対象にした次のような実験があります。受験生活の記憶を「辛かった体験」として4回話してもらう、ということを2チームに分けて行います。一方にはすべてネガティブな体験という前提で話してもらい、もう一方には2・3回目を楽しかったポジティブ体験として語り直してもらいます。4回目は両チームともネガティブな体験として話すことになりますが、後者のチームでは明らかに、ポジティブな表現が増えていたのです。この結果は、過去の辛い記憶を肯定的な言葉で語り直すことによって、良い記憶に変えられることを示しています。

記憶には種類がある

記憶にはいろいろな種類があり、言語化できる記憶は「エピソード記憶」と「意味記憶」に分けられます。「エピソード記憶」は、今日の朝食はどこで何を食べたか、など時空間情報を持つ個人の経験や体験です。「意味記憶」は一般的な知識に関する記憶のことで、「朝食」という言葉の意味や知識です。
「ここはどこ? 私はだれ?」という記憶喪失の場合、「ここ」や「私」という日本語の意味は認識できていますが、その人の経験である「エピソード記憶」が失われています。逆にエピソードはわかるけれど、意味が認識できない、という症状もあり、これは難病の記憶障がいが考えられます。このように、欠如している記憶の種類から病気を診断することも可能です。

記憶とほめ言葉の相互作用

人からほめられるとうれしいし、ポジティブな体験として記憶されます。その記憶が、向上心や意欲につながります。そのため、ほめ言葉を誰に、どんなタイミングで与えると、最も効果的に作用するのか、という研究も進んでいます。
また、人が未来を想起するときは、過去の保存した記憶を使っています。ですから、過去の記憶のコントロール能力は、未来のイメージ構築能力に影響することが予想されます。これらを認知心理学の側面から研究していくことが、これからの課題です。

この学問が向いているかも 認知心理学、心理学

尚絅学院大学
心理・教育学群 心理学類
准教授 池田 和浩 先生

メッセージ

「何を学んだらいいのかわからない」と悩んでいるかもしれませんが、あなたの脳に膨大な知識が保存されているからこそ悩むことができるとも言えます。ですから自分に自信を持ってください。何をすべきか考えるのではなく、何をやりたいのかを考えましょう。「やりたい!」と思えば何だってできます。
私は人の記憶に興味があり、その構造や変化の様相について研究しています。記憶の研究はとても面白く、また多種多様な分野に広げられるという魅力もあります。自然環境にも恵まれた尚絅学院大学で、ぜひ一緒に学びましょう。

先生の学問へのきっかけ

高校卒業後は手に職をつけて働くつもりでしたが、担任から大学受験を勧められ、選んだのが心理学でした。その頃に読んだ心理学の本に載っていた「ミュラーリヤー錯視」に興味を持ったのです。大学では心理学の中でも特に人の記憶に惹かれ「目撃者から正しい記憶を引き出す手法」を卒論のテーマにしました。しかし実験の結果は仮説に反し、考察がまとまらず苦悩します。そんなある日、シャワーの最中に突然、パズルのピースがはまるように考えがつながったのです。あの時の「わかった!」という感覚が今も研究を続けるモチベーションです。